AALTO HOUSE

アルヴァ・アアルトの隠し扉

暮らしの中で、どうしても現実逃避したくなる時だってあるだろう。それは世界的に有名な北欧デザインの巨匠だって同じこと。時に強く、影響力がある人だからこそ、しなやかさや逃げ場をちゃんと用意しているのかもしれない。あなたは日常に一息つく隠れ家をお持ちだろうか。

 デンマークの家具デザイナーのアルネヤコブセン、スカンジナビアデザインの女王と言われているノルウェーのグレタ・プリッツ・キッテルセン、グラフィックから陶器、家具に至る様々なジャンルにまたがりスウェーデンデザインの哲学に多大なる影響を与えたオーレ・エクセル。

 言わずと知れた名だたるデザインの巨匠達が活躍した1950年代から1960年代のミッドセンチュリー期だが、北欧デザイン全盛期のこの時代を語るには、フィンランドを代表する建築家であり、デザイナーのアルヴァ・アアルトの存在を忘れるわけにはいかないだろう。

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 首都ヘルシンキから30分ほどバスやトラムで北上した閑静な住宅街の中に、彼が過ごした自邸が今もなおThe aalto houseというミュージアムとして残されている。自宅兼仕事場として使われていたこの家は、空間を隔てる仕切りは必要最低限で、屋内のちょっとした高低差をつけることで、仕事場と自宅との空間を分けている。そして、長く暗い冬にもしっかりと光を取り込むことができるように要所要所に大きな窓も据え付けられている。

 室内には、彼がデザインしたプロダクトだけではなく、デンマークのルイスポールセンでポールヘニングセンがデザインしたPHランプやペーパーランプなどの北欧各国のデザインがちりばめられている。そのほか、キッチン脇のプライベートスペースには、日本の家具の機能美からインスパイアを受けたシェルフがあったりもする。アアルトは書籍などから日本の家具の機能美を學び、賞賛していたようだったが、彼は生涯の内、一度も日本の地へ足を踏み入れることはなかった。

 注意深くこの家の細部に目を向けてみると、壁とドアのノブが微妙に噛み合っておらず、壁に大きな傷あとが残っているのを見つけることは容易だろう。先にあげた日本からインスパイアされた家具を実験的に作って使っていたことでも分かるように、この家は、ただの生活空間として使われているだけでなく、アアルトのいわばラボラトリーのような位置付けでもあったことが伺える。

 けれど、仕事と暮らしの境なく生活していたアアルトもやっぱりそこは一人の人。彼の仕事場には一つのハシゴとその先には庭を見渡せるバルコニーへと続く、いわば「隠し扉」のようなものがあり、会いたくない客人や仕事の話をしなければならない時にこのハシゴを駆け上がり、バルコニーで一息いれていたというエピソードはとても有名な話だ。

 この家の建築・設計に自らが携わっていた訳だが、”嫌なこと、気の進まないことからは人間誰しもが逃げ出したい”という普遍的で、HUMANITYの部分を決して忘れることなくデザインに反映する。この部分があるからこそ、半世紀以上、経ってもなお愛されるデザイナーの一人なのだろう。

 

アルヴァ・アアルトの隠し扉が掲載されているa quiet day Season4はこちらから