TIVOLIのあかり

デンマークを旅していると、オレンジ色の「あかり」や光に遭遇することが非常に多い。夏は長く延びた夕陽の色。冬は手元に灯されたキャンドルだろうか。ここはデンマークの首都コペンハーゲン。その玄関口のコペンハーゲン中央駅の近くにあるチボリ公園はデンマークで一番有名な観光地といっても過言ではない。チボリ公園もご多分に漏れず、このオレンジ色をベースとした「あかり」が灯る。

ここに行けば、そのオレンジ色の「あかり」の意味が分かるのではないだろうか。

 
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 「何事をなすにも、古い方法でやらなければならない。さもなければ、人々は何も理解することはできない。しかしそれは同時に、新しくなければならない。人々が退屈してしまうからである。このことをよく理解した人々は、大衆の不変の要求を具体化してきた。その要求はきわめて困難なものであり、理にかなわないものであるかもしれないが、ことチボリに関していえば、不幸にして現在チボリが存在しえなかったとすれば、人々はチボリがいかに古く、かつ新しいかを理解してもらうことはできないだろう。

 チボリは城壁をあとにして、コペンハーゲンを脱却し、時代とともに新しくなっている。しかし、チボリとは、たとえオーケストラで奏でられる曲であっても、我々に伝わってくるのは、やはり古いメロディーなのである。」これは1918年に出版された「チボリ・ジュビリー・ブック」の冒頭の一節だ。

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 コペンハーゲン市庁広場のすぐ脇にデンマークを代表する童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの銅像がある。彼の視線の先には“TIVOLI”の文字が燦然と輝いている。コペンハーゲンという地名はデンマーク語で「商業の港」を意味し、古くは中継貿易の機能を持つ自由港として発展した反面、「北欧の遊び場」としても栄えた。この「遊び」の要素をふんだんに取り入れたのが、1843年8月15日にジョージ・クリステンセンによって開設された「チボリ公園」だ。「淋しくなったらチボリに行け」という合言葉が示すように、多くの木々、花々、噴水、そして音楽、劇場、変わった形の建物、イルミネーション、露店、花火などを駆使して、人々を現実から遊離させ、個人の意識をさらに内面へと向かわせる「遊びの空間」を演出してきた。

 その空間演出の中でも、こと「あかり」に関しては特別な想いがあるようだ。というのも初期の照明設計を担当したのは、デンマークを代表する照明ブランド、ルイスポールセンのPHランプを手掛けたポールヘニングセンなのだ。そしてこの世界的なPHランプの形状が生まれた背景も、このチボリにある。第二次世界大戦のナチス占領下の際に、上空からの空襲を避けるため、光線を下方向に向けて放射するデザインを施すなど工夫をこらした。こうしてチボリ特有の夕べの愉しい雰囲気や、夜明けまでの愉しみは守られたのだった。そしてここに来ると「占領下」ということを忘れてしまうほどだった。

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 今でもその「あかり」の演出は受け継がれており、ネオンや蛍光灯などは使われず、キャンドルのような自然の「あかり」を表現するために、着色白熱灯か14ボルトの電灯が直列に繋がった「チボリ電球」を使っている。つまりチボリ特有の遊びの空間を演出するには、明るさの強い電灯を数少なく使うよりも、明るさの弱い電灯を数多くつけた照明が必要なのだ。

 話を冒頭の一節に戻そう、今回このチボリという「遊びの空間」を新しいモダンデザインの一例として取り挙げたい訳ではない。また、古く伝統的なデザインへの憧れや郷愁からでもない。そこにあるのは、人が根源的に欲しており、基本的な行為でもある「遊び」という部分をどのようにデザインしていくのかということだ。デザインという言葉が本来の意味性を失いつつある現在。ひょっとするとこの「遊び」の中に、その忘れものを見つけることができるかもしれない。

 人々を楽しませてきた童話作家アンデルセンは、今のチボリや世の中をどう見ているのだろうか。そんなことを考え銅像に肩を寄せ、ふと考えてみる。

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